第5話≪届くまで追いかける≫ 魔法の定義とは何だろう? 空を見上げながら考てみる。 答えは出なかった…… /b1 《求めるのは力よりも知。》 そして私たちの探しものは一つになった。 それは学くんが見事な推理力を発揮してくれたお陰たった。 ビックリせずにはいられなかい。学くんがこれ程の推理力を持っていたなんて… 「それにしても凄いね。私は言葉の殆どを聞き流しちゃったよ」 「まあ、趣味で推理小説とかよく読んでるし。それ以上にあのタイミングでココロが現れるのは不自然過ぎたからかな」 確かに学くんは本を読むのが大好きだった。 何を読んでいるかは知らなかったが見ているからすれば、それは殆ど活字中毒で、文字があるなら何でも読んでいるようにも見える。 つまり、文字と言葉に関しては得意分野なのだろう。私と違って国語は得意だし… ちなみに私は本なんて漫画しか読まないから到底出来ない事だと思う。 「それじゃあ。ココロちゃんがこの世界の説明をしている時から疑ってたの?」 「そうだよ。俺はちょっと捻くれてるからね」 まあ、幼い頃からの友達である私から言わせて貰えば"ちょっと"じゃないけどね… 決して履歴書に書けない特技を上げるなら人の『揚げ足を取る』なんて考えていた。 そして私たちはこれからの歩き方を話し合った。 「とりあえず、魔法使いは見つける事が出来た。これからすべき事は大切なものを見つける事だ。和香菜の大切な物って何?」 何だろう……?お気に入りの服?音楽のCD? でも、こんな物が答えになる筈がない。それに大切なものと言うほどの物でもない。 他にも考えてみたが上手く思いつく事が出来なかった。 「わからないや…。学くんは何か考えがあるの?」 「勿論あるよ。でも、教えられない。これは人から言われて気づいたらいけないんだ。自分で見つけないと駄目だと思うから」 今の言い方も少し捻くれていると感じてしまう自分がいる…良く言えば優しさ?でもないか…… 学くんは捻くれているからこそ常識に囚われない考え方を生み出すことが出来ている。 それは私には出来ない事であって学くんを形成するにあたっては必要不可欠な要素だと思う。 少なからずその言葉を私は正しいと思ってしまう。 「わかったよ。考えてみるね」 時間を掛けてもいいだろう。自分の本当に大切なものを問われているなら偽る必要もない。 /b2 現実の時間に換算して言ってみれば数日が経過した。と思う… その間は私は考え事をしては睡眠を取っていた。 私が考え事をしている間も、寝ている間も学くんは何か作業をしている。 時間を計ろうとしているのか、砂時計を作ろうと試みたり、水を蒸発させようとしていた。 でも、上手く行かずに嘆いているのもよく見る。 学くんは頑張っている、使える限りの思考を使ってこの難問を解こうとしている。 その難問は魔法使いを探す、大切なものを見つけるとは違う。 魔法と言う名の幻想を捕まえようとしているのだろうと私は感じている。 「学くんもそろそろ。休んだら?」 この世界でも疲労は蓄積する。そもそも人が活動するにはエネルギーを消費する。 しかし、消費したエネルギーを摂取しなくていいという矛盾。 「あ、ああ……そうするよ」 学くんは、まだ探求が足りないような気持ちだろう。 それは顔つきから容易に想像できた。学くんも……そのルックスは良いんだけどな。 気に掛かることがあるとすれば私とは正反対の性格だ。 そして学くんは私の座っている日陰まで歩いてきて隣に座った。 「何か解った事でもある?」 「そうだな、時間を計れるものでも作ろうとしたんだが魔法使いが手を回したのか、時間という概念が存在していないのか上手く行かないんだ。」 なるほど、時計ね。ここじゃ太陽の位置で時間を知る事も出来ない。 時間が解らなければ区切りが効かない、区切りがなければずるずると時間を進めてしまう。 ゴールの無いマラソン。無限に続く小説。 どんなものにも飽きが存在する限りこの世界にも飽きと言う名の諦めも存在している。 この世界に生きた人が私たち以外にもいるならば諦めたに違いない… 「ねぇ。もし、この擬似世界を諦めてるとどうなると思う?」 唐突に思いついた言葉だった。答えを期待して聞いたわけでもない。 でも学くんは口に拳を当てて真剣に考え始めた。 口に拳を当てるのは深い思考を使う為の癖だと思う。 不覚にも私はその癖を見て頼もしいと感じてしまう。 「なるほど……。そうだな………」 なんて1人で納得されてしまう。少しは私にも説明してもらいたいものだ。 それから私の存在なんか忘れたかのように考え込んでしまう… いったい、何を考えているか、私には想像すらつかない。 そんな私に学くんは考えが纏まったのか顔を上げて私の方を見た。 「それだよ。流石、和香菜だ。ここを抜け出す方法があるとすればそれだ」 いつもそうだ……自分だけ納得して話を進めようとしてしまう。 その所為で頼もしく思った自分を情けなく思う… 「もうちょっと説明してくれない?少しも解らないって…」 学くんは私の呆れた顔を見たのか説明を始めてくれた。 「俺はいつのまにかこの世界を、魔法を肯定してしまっていた、それが間違いだったんだ。魔法によって引き起こされていると。しかし、今起きている状況を否定するとどうなる?」 「えーと…。今私たちが体験している事はどう説明するのか、に突き当たるね」 よって否定しる方法はなくなる。今の体験は実際に起こっている。 それは体が感じて脳が判断している。 だからこれを否定する事は出来ない、つまり魔法の肯定にも繋がっている。 でも、学くんは別の考えがあるみたいだ。 「うん。よく理解してる。でも―――魔法が本当に実在すると思うか?」 それが最大の疑問だ。今更問われても困る… /1 《一言で言うと、跳。》 「ねぇ。魔法って何だと思う?」 僕は突然、疑問になった事をココロに質問した。 魔法、それは何だろう?科学では出来ない事?それとも擬似世界を創りだす事? そもそも今起きている事は魔法と言う奇術でくくれるのか? 「どうして……灯路くんがそんな事を聞くの?」 「―――え?」 一瞬――――言葉に詰まったのは事実だ。 いつもと同じようにココロに話しかけたつもりだった… しかし、いつもとココロの対応が違う、違和感を感じてしまう―――― 「皆、この世界が嫌いなんだね……」 解らなかった。何が解らないかも解らない… 一番解らないのが…"突然、ココロが涙を流し始めた"からだ… 僕の心が何故か痛む。ギシリと音を立てて感情を刺激する。グラリと視界が揺れる。脳髄が正常を保てない… 見慣れぬ涙というものにはこれ程の影響力が存在している。 「皆、この世界から逃げ出す事を考えている。この世界は楽しむ場所、辛いはずはないのに……」 さっきからココロの語っている言葉も違ってきている。 "皆"と言う表現を使っている。この空間には僕とココロの2人しか存在していない。 その上で"皆"と使っている以上他にも僕と同じ状況の人たちがいるに違いないと肯定付ける。 それと同時に僕は理解した。どうして魔法使いココロがこの世界を創ったのかを―――― この世界は楽しむために創られた、ココロは孤独を生きてきた魔法使い。 ココロは楽しむことなく生きてきた、だから……遊びたかったんだ。 間違っていた、僕は――――楽しまなければいけなかった。 探しものを見つけると言う前提で楽しまなければならなかった。 だって……此処は太陽が沈む事がない、ずっと遊んでいられる空間だ。 だから、僕はこの言葉を言った。 「ココロ……何して遊ぶ?」 ココロは涙目で僕を見る。痛む、刺激される――――思い出される――――あの事故…… 涙という存在が僕の記憶の中でイメージを繋げる。 ギリギリと音を立てながら足元から近づいてくる、僕を狩ろうと待ち構えている… 孤独と言うなの使者が記憶の中から最悪の思い出を証明する。 そして…ココロの目は語っていた。『どうしてと?』 今更、理由を聞くのは間違いだろうと思ったが指摘はしない。 必要なのはココロが楽しむ事、楽しめればそれで解決する。 「何でもいいよ。遊ぼう、砂の城でも作る?それとも泳ぐ?」 僕は出来る限りの優しい声をだした。僕は出来る限りの笑顔で対応する。 ココロは答えない、僕の目を見ながら何も答えない。それは心理を読もうとしているのか… だから創られた笑顔は崩せない、今終わってはいけない…まだ続けなければいけないと―――― そしてココロは返事をしない。だから僕が話さなければいけない。今、やっと語る事が出来る。 「ココロに僕の大切なものを教えようか?」 此処に来て解った大切なもの。 いや…此処に来る前から解っていた。解っていたけど近くに居すぎて理解出来ていなかったんだ。 これが……僕の、いや…僕たちの答えだ。 「それは――――仲間だ」 この言葉は笑顔では言えなかった。気がつけば真面目な顔をしている自分に気がつく。 仲間、それは翔輔、学、和香菜。僕と共にいてくれた仲間。信頼出来て、一緒にいると楽しくて… 思い出したら、会いたいと思ってしまう。そう思った頃には孤独は何処かに去っていた… 「やっぱり……気づいてたんだね」 「気づくも何も、大切なものと聞かれた時に最初に思い浮かんだのが仲間だったんだ」 そしてこの大切なものには続きがある。 ここで終わらしてはいけない、続きを語らなければ終われない。 仲間はこの3人だけではない。 「そして――――ココロも僕の大切な仲間だ」 短い間だけど…、いや実際は長いのかもしれない、でも短い間と過程しよう。 一緒に考えた、一緒に行動した。一緒に話した。一緒に―――― これだけで十分仲間と言えるのではないか?仲間とは信頼出来る他人の事を言う。 そして僕はココロを信頼している、魔法使いであろうとも…ココロが既に仲間だと自信を持って言える。 「ココロから見て、僕は仲間と言えない?まだ―――僕が信頼できない?」 ココロは小さな声で言った。『ずるいよ……』 微かにしか聞こえなかった…タイミングが悪ければ聞き逃していただろう。 何がずるいのか僕には解らなかったが解る必要もないだろう。 「ううん。信用…いや。信頼出来るよ。灯路君は私の仲間―――――」 その言葉で思い出した。小さい頃に母さんが言ってくれた言葉。 『人の路を照らす灯かりになりなさい。灯路の名前にはそう意味をなのよ。』 そう………なれるとは思えなかった。 僕なんか、ちっぽけな存在が人の路を照らせるとは思えなかった。 自分の路も知らないのに、人の路を照らせるとは思えなかった。 でも…今の僕ならココロの路に灯かりを与える事が出来ると確信めいた感情がある。 そして――――ココロは語り始めた。 「私は――――」 /xxx0 魔法、それは人の心を映し出す鏡。 望めば繋がる、望まねば繋がらない、届くか、届かぬか、それは努力と才能が解決する。 限界があるなら超える、無理と知れば諦めない。 少女はそうして生きてきた。それが彼女の魔法使いとしての生き方であり、路だった。 辛く、孤独で、他を寄せ付けることのない存在、魔法使い。 他は追い抜くための通過点でしかなかった。だから1人で十分だった。他に執着する好意は無意味だと理解していたから。 そして、全ての他を追い抜いた時、彼女は思い出す事になった… 生きた路の中で唯一、純粋だった子供の頃に見た景色を―――― 雲ひとつない空、青く澄み切った海、綺麗な砂浜。 ここで遊びたいと望んだが、叶わなかった。 束縛された子供時代に遊んでくれる友もいなかった。 血の通った親なんて名ばかり、一人前の魔法使いに育てようとする事しか考えない大人だった。 その親のお陰で魔法使いになれたのだから今では少しは感謝もしているが、結局は他に過ぎない。 親ですらも彼女にとっては通過点、才能と言う反則が全てを凌駕する。 孤独な時代を生きた彼女は再びこの地を訪れた。唯一純粋な思い出を頼りにしながら…… 文明から取り残されたかのような田舎町。この淀んだ世界の一部とは感じられない景色。 それも―――――数年前までの話。 この浜辺はリゾート地としての開発が進んでいた。 溢れかえる人員、運び込まれる文明の機器。 来年の夏には自然を一切感じさせない景色へと変わってしまうだろう… そして私は世界としての流れを感じた。 「もう、ないのね。私が見たかった景色は――――」 だから創った。それだけの術を彼女は身に付けていた。 それは魔法。心を映し出す鏡。少しだけ時空と空間を曲げたに過ぎない。 擬似世界を創ってから長い間待つ必要もなかった。 経験した長い孤独に比べれば些細な一時、そして迷い込んできた4人の少年と少女。 彼らにはリゾート地としての開発は見えない。 既に擬似世界へと迷い込んでいるのだから…… 私は考えた、この世界で遊んで欲しい。 私が幼少時代に叶わなかった事を体験して欲しい。 この世界ならばそれが経験出来る、故に魔法。 彼女は悪役になる為に3人の少年達に言葉を投げかけた。 「私は魔法使い―――――」 |
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