割れる足跡








第4話≪可能性からの開拓≫


閃き、可能性、限界。

全ては流れる水滴の様に………

謎が解ける。魔法使いは――――


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《可能性?そんなものないよ。》

僕が此処に来てからどれぐらいの時間が経っただろう……?時間の感覚が薄くなっているから解らない。
その薄くなった感覚でさえも今にも失ってしまいそうな気がする。
空腹も起こらないから唯一頼れるのは眠気だけだった。しかもその眠気の頼りない…
僕は頼りない感覚を使って考えてみた今まで5回の睡眠を取ったと思う。
一度眠れば何時間眠っているかというのは更に解らなくなると考えれば余計不安に感じてしまう…
疲れた体で起こされずに寝続けると10時間以上は寝ると思う。
だから眠るのを躊躇ったし、期待も持っていた事は間違いない。
今起きている現象を目が覚めると全て元通りの世界になっているのではないかという期待。
もし、そうなった場合に失ってしまうココロの存在。
僕は中途半端な事は嫌いだった、やると決めた事は最後までやり遂げたい。
物事を考える時はココロの事も一緒に考えていた。


/2

それから数時間は思考を使った。時間とは大体で言っているものだから深く考えないで欲しい。
そして案を一つ考えた。人は時計や空を見て時間を計ることが出来る。
此処では空を見ても雲の動き程度しか掴めない。だったら時間を計れるものは作れないかと僕は考えた。
さっそくココロに相談してみる事にする。

「それでだ、時間を計れるものを作りたいんだけど」

時間を計れなくとも、時間を体感出来るものが欲しい。
時間を体験できれば何かが解るかもしれない。
それに擬似だろうと自然の中にいるんだ、何か作る事が出来るだろう。

「どうやって?此処には材料も道具もないんだよ」

それもそうだ……。でもある素材を使えばアレを作れるかもしれないと僕は考えてみた。

「砂時計は作れないかな?」
「作れるか微妙…。砂ならあるけど器はどうするの?」

そして幾つか器についての案を考えたがどれも良い意見ではなかった。
木の葉を器にしようとしたが上手く砂が流れない上に穴を大きくすれば流れすぎて短時間しか計る事が出来ない。
他にも岩など僕の目で確認できる素材の全ての可能性を確かめたがどれもぱっとしなかった。
難しいな、前に見た映画じゃ無人島で工夫しながら生活してたんだよな…
火を起こして食べ物を焼いたり、工夫して魚を狩ったり…
でも此処では火を起こす必要も、魚を狩って食べる必要もない。
そもそも此処には僕とココロを除く生命の存在がない、魚も鳥も存在していない…
やっぱり、創られた物語と創る物語は違うと実感した。
それと創られた世界と築かれた世界も全く違うと再確認した。


折角考えた案に行き詰った僕は洞窟から外の景色を眺めてみる。
日差しが相変わらず強くて暑そうだった。
この暑さは太陽から地表に届く熱だと考える。
そもそも世界を創ると言うのはこの浜辺を作っているのか、太陽と含む星を創っているのかで規模が全然変わってくる。
魔法使いとは何だ?魔法とは何だ?情報が混乱する…
思考と言う名の処理が遅れる、しかしこの時が一番閃きを行なえる時だと僕は経験から知っている。
思考を止めれば新たな案が生まれる。それは水滴の様に流れ落ちる――――

「――――そうだ」
「――――何――つい――の?」

そして生れ落ちた水滴を最速の思考で処理する。
ココロは興味を持ったのか声を掛けてきた。
だが僕はこの言葉がどんな意味を持っていたのかを今の僕は処理しきれない。
だから返事は出来ずに再び考えを思考に送り込む。此処で会話をして案を逃がしてしまうのも勿体無い。
そして練成された案を頭の中で描く。

太陽→熱→海水→蒸発

思いついたのはその暑そうな日差しだった。
これを使えば……きっと出来る。
作る事によって意味を成す砂時計とは違って在るものを使うのだから可能性が高い。
此処でやっとココロに返事をする事が出来る。

「日差しを使うんだ。岩場に海水を張ってそれが蒸発する時間を計るんだ。ここは日差しが一定している。それを逆に利用するんだ。」

ココロも僕の言葉を理解する。
先ほどの砂時計の案よりも良い案の様で反応が歴然だった。

「おお、なるほど!賢いね、灯路君は」

僕はココロに一つ返事をして洞窟から飛び出した。
やる気が出れば動きも良くなる、暑さも忘れる。

「でも………――――――………」

ココロが何か言った気がしたが次の瞬間には忘れていた…
その言葉が大事だとは知らずに僕は駆けていた。





/3

それから考えてみれば水を運ぶ道具もない事に気がついた。
手で汲むには時間が掛かる過ぎる。
バケツのような道具も当然のように存在していない。
そして僕は着ていたTシャツを脱いで水を含ませた。
日差しが皮膚を焦がしそうだったがこの際気にしてはいられない。
僕はTシャツに水を含んだまま岩場へと向かった。
岩場のくぼみを見つけてTシャツを搾った。決して多くの海水ではないが実験するには丁度良いぐらいの量だろう。
そしてこのくぼみで海水の蒸発の時間を計ろうと試みる。
この表面積でこれだけの量なら数時間もすれば水が完全に蒸発するだろう。
僕はずっと観察していた。
観察開始から飽きるぐらいの波音を数えた……

1555回の波が行き来した。
これを時間に変換してみる。一回の波に約4秒掛かっていると考える。

s=6220
6220秒

min=103.66
103.66分

h=1.727
1.727時間

少しだけ時間を掛けながらも暗算をする。
1時間と約42分が経過した……
これなら時間を数える事は出来るしかしそれでは意味がない。
いつも時間を数えてばかりいては他の思考が回るほど僕は器用に出来てはいない。
そして岩のくぼみに目を向ける。

「水が……減らない気がする。というか完全に減っていない…」

これだけの時間を掛ければ水が減っても可笑しくはない、いや。減る筈なんだ。自然界の法則であれば。
仮説が頭の中で浮上する。
ここでは現実の常識は通用しない、という事は……法則すらも通用しない…
目の前ある水がは蒸発しないように出来てる事を意味している。
それとも…魔法使いが魔法なるものを駆使して水を蒸発出来ないようにでも細工したのかもしれない。
可能性という閃きを生んでも次には消えている。
此処では時間と言う単位を使う事すら無駄なのかもしれない。
時間を忘れて無限を受け入れた方が随分と楽になるかもしれない。
でも……十数年と言う僕を作り上げてきた生活には時間が纏わり憑いていた。
その月日を忘れて時間を捨てるなんて事は今更出来ない。

思考の途中だったがココロの足音と共に声が聞こえた。

「成果はどう?」

そう言いながらも僕の表情から結果を知る事も出来ていただろう。
だがあえて聞いたのは確認の為だろうか?

「無理だったよ。やっぱり此処では現実の常識も法則も通用しないみたいだね」
「………そう…」

ココロは少し悲しそうな目をした、何故そんな目をしたのか解らない。
というか他人の心が理解出来る人間なんて存在しない。
どうして?と考えるのが間違いなのかもしれない。
誰にだって知られたくない事を持っている。もちろん僕だって例外じゃない。
でも……僕がそんな顔をしている他人をほっておけない性格をしているのも事実だ。

「大丈夫。きっと何か見つかるよ。ココロは心配しなくていいよ。僕は諦めたりなんかしないから」
「そうだね……ありがとう」

ありがとうの部分が小さく聞こえたのが少し気になる。
でも問う事は出来なかった、そんな目をした人にどんな声を掛ければいいかが解らないからだ…

そして僕たちは洞窟まで歩いて戻った。
洞窟の中はいつもと変わらず涼しい。外に何時かもいた所為か余計に涼しく感じる。
僕は座り込んで思考を巡らせる。
新しく設計を始めようとしても中々動かなかった…
何か、燻ぶるようなものを感じていた。それは記憶の中に存在している……
どれだ?どの部分が可笑しい?
その問いかけは自分にかけている。だから答えるのも自分だ。
探し出して、見つければ答えられる。
ココロが語った会話の内容の一つ一つを思い出している間に――――

何か……やっぱり違和感を感じる、正確には感じていたけれど気にならなかった。
気にする余裕なんかあの時にはなかったからだ。
でも今、冷静になって考えれば不自然な事だ……

「なあ、ココロ。僕の仲間、今どうしてるか解る?」
「―――え?どうしてそんな事を聞くの?私に解るはずないじゃない。」

ココロは慌てながらも答えた。
悲しい目はもうしていないみたいだった。
なるほど。僕程、嘘が苦手な人もいたんだなと1人で納得して可笑しくなってくる。

「だろうね……」
「その言い方…何か解ったの?」

これは解った言えるのだろうか……?これは切欠に過ぎない。
まだ解っていない、理解できていない。
もっと綺麗に処理しなければ解いたとは言えない。
だから……まだココロには言えない。
でも何か解った事は確かだから返事だけはしておく。

「まあね」
「何なの?教えてよ」
「ごめん。まだ、言えないよ」

ここからだ…本当の探し物をしなければいけない……
まだ、魔法使いの居場所は語れない。
大切なものを見つけてからでないといけない予感がする。
でないと大切な何かを失う気がする。







/b0

《私は雨が嫌いだ。》

目の前に写るは青い空と見事な水平線。
私はこの景色を見た事がある筈だと理解する。
今の私の中で聴覚だけが機能している。
波の音だけが聞こえる……他には何も聞こえない…
私の目には何が映っている現象は現実に存在していいのだろうか?

「ねぇ……ここ何処?」
「…………海だね」

それは解ってるよ。少し怒りながら声に出そうと思ったがしなかった。
何も考えられないのも仕方ないと思ったからだ。

私たちは同じだけど違う場所へと私たちは来てしまった。
正確には連れて来られたと言ってもいいだろう。魔法使いと名乗る背が高くて髪が長くて綺麗な女性に…
魔法なんて私は信じていなかった。でも目の前に見せられては疑う事も出来なくなってしまう。

「で、これからどうする?」
「出口が無い、誰もいない、何もない。どうすればいいと思う?」
「それを聞いたんだけどね…。まあ、いいや…」

素っ気無い返事をされたので私は自分のを考えを話した。

「とりあえず、魔法使いを探そう。連れて来たのだから何処かにいる筈だよ!」
「…そうだね。そうしよっか…」

考えても何も解らないのだから動いてみるしかないと思った。
そして歩き出そうとした時だった、後ろから声が聞こえた。
気配も足音も聞こえなかった、感じなかった。
ただ……不快感だけを感じる―――

「君達も……魔法使いに連れてこられたの?」
「君、誰?」

学くんは質問には答えずに自分から問いかけた。
勿論、学くんの発言はもっともだ。突然知らない少女に声をかけられたのだから…
誰のいないと思った空間には人が存在していた。それだけで私は嬉しかった。

「私の名前はココロ」

そして――――私たちの旅も始まった。





/b1

私たちはココロと名乗る少女から大体の説明を受けた。
質問をすればちゃんと答えを返してくれるのでココロと言う存在に感謝する。
整理するとこんな風になる。
この場所は擬似世界と呼ばれる魔法使いが創った空間である。
法則を言えば時間が止まっている、太陽が沈まない、空腹が無い、成長しない。
他にもあるみたいだけど自分達で調べたほうが早いかもしれない。
あ、後は現実の常識は通用しないと言う事、どういう意味かは解らないけれど重要みたい。
そして一番重要なのは此処から抜け出す方法だ。探すものは2つ、魔法使いと大切なものを探す事。
魔法使いというのは一度会ったから大体は解る、けど大切なものとは不確定でどんなものか想像がつかなかった。
最後に、この空間には私と学とココロの3人しかいないと言う事。

「その話は信用できる?」

声を出したのは学くんだった。発言したからには何かしら考えがあるのだろう。
学くんは頭が良い。だから私とは違う部分で疑問を持っているに違いない。
ココロも自信を持って返事をする。

「これだけは信じてもらうしかないわね」

学くんの顔を見てみるとまだ納得していなと言っているように見えた。
何か確信を持っているに違いないと私は直感で悟る。
それと喜びをかみ締めているような口元も見える。

「残念ながら信じられないね。ココロは言ったね?『消された人がいる』と…」

確かにココロは言った……
もう一度、言葉に出ると私にも理解出来てしまう。
何故、学くんがこんな事をココロに聞いたのかを―――

「………」
「何故、消された人の記憶まで消えるという事が解るんだ?」

私が聞き流していた言葉を解析し、理解していた。率直な感想は凄いと思った。
何が一番凄いかと言うとこの状況で冷静さを保てる事が一番の凄さだと思う。
そして私もココロの言葉を思い出してみると他にも同じ状況であるココロが何故知っているのか?という部分が見つけられた。
こんな情報の無い空間では一つ目の情報を基本にして考えてしまう。
此処で学くんが気づかなかったらその基本が変わる事はなかっただろう。

「………」
「一つ目の探し物は見つけたよ。魔法使いはココロ。君だね」

学くんは自信を持ってココロを指差した。
まるでそれは自分が探偵にでもなったかのような気分だろう。
指を指された少女は俯きながら不気味な笑みを浮かべる…
顔が見えないからはっきりと解らないが笑みを浮かべている様な気がするのは事実だ。

「ばれちゃったね」

その笑みは笑顔とは言えない。怖い――――
私よりも年下に見える少女を私は怖れた。
本能が言っている、引け!と……

「君は私を見つけた一人目の人だ。まさか、こんなに頭が良い人ばかりだなんて思わなかったよ。」
「生憎、なぞなぞは得意でね。それで魔法使いさん、どうなってるの、この世界は?」

私は2人の会話についていけなかった…言葉を挟むなんて到底出来ない…
ただ、聞いている事しか出来なかった。
気がつけば私の体は学くんに一歩近づいている。それだけこの少女は怖れているに違いない…

「この世界は出られないよ。もう一つの探しものを探し終えるまでは」

この声が……ココロの声とは思えない。
ココロ=魔法使いは決定しているしかし今喋っているのはココロではない。
変な日本語になってしまうが魔法使いが喋っているんだ。

「それなら――――」

学くんが次の質問をしよとしたが間に言葉を挟まれて続きを言えていなかった。

「君達にサポートは必要ないね。探しものを見つければ解放する。それだけは守るよ。もっと楽しんでくれなきゃ、灯路君も楽しんでいるよ」
「ま、まさか……灯路も此処にいるのか!?」

「そうだよ。まあ、此処とは違う此処だけどね。彼も悩んでいるよ、そして探している。これ以上のヒントは要らない、それじゃあ頑張ってね」

ココロの体が笑みを浮かべながら手を振る。
そして、その体から強烈な光が放たれる。
私たちは反射的に目を閉じてしまう。魔法使いに此処に連れてこられた時のように―――
聴覚には学くんの声だけが聞こえる。

「待てよ!!!」

そしてココロから言葉が返ってくる事はなかった。
目が正常に動く頃には勿論ココロの姿は確認できない。
気がつけば学くんに近づいていただけではなかった事に気がつく。私の手は学くんのTシャツを強く握り締めていた。

「学くん……」
「大丈夫だ。灯路は頭が良いし行動力もある。きっと見つけられるさ……」

そうだね…灯路くんも学くんと同じくらい頭が良い。
それはテストなどの点で現れるものじゃない、人として、生きるという考えが優れている。
それに……人生経験は私たちなんかよりも豊富だと思う。
だからきっと切り抜けられると私は信じる。信じなければいけない!

「俺たちは探すべきものを探そう!」
「うん。そうだね」

私は私に出来る事をすれば良い。それが精一杯の努力であれば報われる。
それが私が信じている未来、先は自分が起こす。
運命なんか信じない、全ては自分が招いた結果だとして……




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