割れる足跡







第3話≪探しものは増える≫


目的地はまだまだ見えない。

でも諦めずにゴールまで行きたいと願った。


/1

《探せば逃げる、しかし。逃げても探してはくれない。》

それにしてもこの世界は暑い……
ココロの言う通り太陽は沈むどころか動こうともなしない。
いつも正午を示しているから日陰も多くない。通常なら気温は上がり続けるだろうがそれは免れていた。
唯一の救いはそれかもしれない…暑さで精神的にも肉体的にも壊れてしまう。
そして太陽が沈まないと理解してしまうと余計に意識してしまう…

「大丈夫よ。ここは擬似世界だから、現実の常識はないのよ」

そんな前置きはいいから核心を話してくれ…
こっちは暑さでどんどん体力が奪われて今にも倒れそうなんだ。
いや、そもそも常識がない事は大丈夫と笑顔で言える事態なのか?

「ここは擬似世界。暑いからと言っても喉が渇かないでしょ?」
「…そう言われれば、そうだな」
「他にも空腹などが除外されてるみたい」

なるほど、空腹、乾きがなくなれば永遠に活動は可能だろう。
時間は常に正午、そして海が広がっている。浜辺で遊ぶ事に関してこれ以上の環境はないだろう。
でもそれは不安にもなる。僕はこの世界で生きていると言えるのだろうか?
この世界はそもそも現実と繋がっているのか?
ああ…解らなくなってきた。

「他に何か除外されてるものはないの?疲れないとか…」
「それはないね。疲れなければ何処までも遠泳が出来る。そうなってこの浜辺を見失ったら二度と此処から出られない。魔法使いもちゃんと考えて設計してるみたい。他にも除外されてるものがあるかもしれないけど私は解ったのはそれだけよ」

魔法使いか……それを探すのも課題の一つだったな。
ルールである以上見つけられる場所にいるのが原則だろう。
常識で考えてみる…この浜辺で隠れる場所は多くは無い筈だ。海、浜辺、岩場、洞窟の4箇所しか考えられない…
しかしこの4箇所の中に隠れているとはまったく思えなかった。何故ならここでは常識が通用しない。
だから常識を取り除けば答えは絞れるかもしれない。
どっちにしても簡単には見つけられないだろう…
とりあえずは気長に頑張っていこうと思う。

「あ、そうだ。もう一つ除外されているものがあったよ」
「何?」
「時間と成長。私たちは成長期の子供だけど擬似時間が停止している此処では成長が行われない。身長も伸びないし、体重も変わらないし、髪なんかも伸びない。今の状態が保たれるんだ」
「って事は、何日此処にいてるかも解らなくなるじゃん……」

確かに太陽が沈まない時点で気がつくべきだった。
現代人は時間の計算が出来なければ余計に不安になってくる。
腹が減らない、日付が変わらない、体が成長しない、他にも何か法則があると思う。
でも今解っている事は一つの事に繋がっている。
時間の経過によって起こる変化が全て変わらないようになっている。
頭の中に設計図を描いていく、ヒントになると思える事を少しでも多く書いていく。
それは最終的に答えへと繋がるだろう。
そんな思考をしている時に、ココロは一番驚くべき言葉を発した。

「それに………私は…何年も此処にいると思う。」

それは………僕が最も嫌っていた孤独を体験していることを意味していた。
時間が止まっても経験は止まらない。永遠の夏、それは永遠の孤独、永遠の地獄を意味している…




/2

………暗く寒く狭い空間。

変形して開くことがなくなった扉。

事故によって僕は母さんを亡くした。

母さんが死んだのは小学校に上がって直ぐだった。
理由を言えば事故だ。自然現象によって引き起こされた、回避することも、予測する事も出来なかった…
それは必然と言えばよく聞こえる。仕方ないという言葉で括るしかなかった…
その日は記録的な大雨かだった。僕は母さんの運転する車の助手席に座っていた。
雨が視界を悪くしていたが母さんはスピードを落として安全に走ってた。
僕も大好きな母さんと会話を交わしていて少しの不安も感じなかった。
会話の内容は覚えていないけれど何かを話していた時だった……
ゴゴゴと雷のような音が聞こえた気がした。
その時に初めて不安を感じたと言ってもいいだろう。
音は近い場所で何の音かは全然解らなかった。でも、それは僕の知識の範囲外だったから理解できていなかっただけだ。
ゴゴゴと言う音は音量を上げ、近づいてきた。

それは―――――上空から。

逃げる事も出来なかった。

想定なんて出来ないから逃げるという思考も行動も出来ない。

崖崩れが――――僕と母さんの乗っていた車を襲った…
その瞬間でも何が起こったか解らなかった。突如、衝撃が襲ったが襲って、怯えた。
気がつくと暗くて何も見えない空間にいる事だけが理解できた。
隣にいる筈の母さんに声を掛けても、泣き叫んでも何も返ってこない…
手を運転席に向けて伸ばしてみる。ドロリと……まだ生暖かい液体のような感触を掴んだ。
幼くもありながら僕はそれが血だと認識してしまった。
僕は更に大声で泣き叫んだ。やはり何も返ってこない。

《そんな僕を雨の音だけが耳を刺激する。》

その崖崩れは早くに発見されただろう…そして岩の中には乗用車がある事も――――
しかし、岩に包まれた車を掘り起こすのは困難だった。
その困難さに豪雨と夜というリスクも背負わなくてはならなかった。
救出されるまでの長い間を僕は1人で体験しなければならなかった…
死を隣り合わせに感じる時間、母を失ったと考えてしまう悲しみ。


僕は体験した……孤独と言う名の地獄を――――

泣き叫ぶ事も疲れた、喉が渇いて声も出ない…お腹が空いても何も口に出来ない。
幼い僕には精神的にも肉体的にも限界だった。
事故発生から救出まで時間にして約38時間。
孤独を僕は味わった、そして死を間近に感じてしまった。
直ぐに僕の入院が決定された。

数ヵ月後には生きて家に帰る事が出来た。しかし父親のいない僕は更なる孤独を味わう事になった。




/3

夢を見た……最大の孤独を味わった時の夢だ。
最近は見ないと思っていたけれど…もしかして魔法使いの影響だろうか?
これだけの影響力を及ばせるんだ、人の記憶に侵入するぐらい容易いだろうと勝手に考える。
眠っていた場所はあの洞窟だ。外とは違って涼しくて快適だった。
周りを見渡してもココロの姿が見えなかった。

「……何処に行ったんだ?」

目を擦りながら外に出た。
眩しくて一瞬、周りの景色がわからなかった。
でも少しの時間でそれは治ってきた。目が慣れて外を見渡す。
一眠りする前と何も変わっていなかった…海も景色も音も香りも気温も……

「擬似世界か……」
「擬似世界がどうかしたの?」

気がつけばココロが岩陰から出てきた。
そして、ココロも何も変わっていなかった。

「いや、ちょっと変な気分だよな。よく考えればこんな事を体験するなんて…。運が良いのか悪いのか解らないよ」
「その割に灯路君って冷静だよね。大体の人は此処に来たら取り乱したり、悩んだりしているけど…灯路君は違う、冷静で行動的で理解力があって考えも早い」

そして『すごいね』なんて言って来た。これは褒められているのだろうか?
褒められたとしても僕は喜ぶなんて出来ない状況だって事は解っている。
僕だって取り乱したし、悩んでいる。これは間違いない。
人は限界を感じると最大限の思考を発揮できると僕は信じている。
それに理解すればこれぐらい大した苦痛にはならない、いや…ココロがいるから今の精神状態を保っていられるのだろう。

「さて…。今日も聞きたい事があるんだけど」
「今日って単語は変だよね。でも仕方ないか、ここじゃ一日が終わらないし…。何でも聞いてよ、答えられるなら答えるから」

僕は始めに魔法使いを探し始めようと考えた。
でも、こんな浜辺を歩いて、手がかりもなしに探しても絶対に見つからないと思う。
だから少しでも情報を集めてそれを手がかりにしたいと思った。
そして今、情報が集めるこ事が出来るとすればココロしかいない。

「そうだな…。ココロは長い間此処にいるって言ってたけど何人がこの世界へ送られたんだ?」

その質問にココロは口ごもりながら答えた。

「……4人、いや…5人かな?」

アバウトな答えだと思った……それは長い間ここにいたから記憶が混沌しているのだろうか?
ココロが此処にきたのはずいぶん前みたいだからな。それとも…別の理由があるのか……

あれ…?そういえば忘れていた。
何で忘れていたのかわからない、でも忘れるべきじゃない事を忘れていた…
顔が頭の中に浮かんでくる。一緒に来た筈の友の姿を――――

「そういえば僕は此処に友達と来たんだ!翔輔、和香菜、学はどうなってるんだ?」
「………ごめん。それは解らない…。現世の出来事は私にはわからない。それと私の時間軸と灯路の時間軸は違うと思うよ。」

ココロはいつも通り、僕には理解出来ない言葉を使って話す。
だから僕も聞き返す。

「それは――――どういう意味?」

「灯路君が15歳の誕生日を迎えたのは西暦何年?」
「えーと…1998年だよ」
「やっぱり、違う。私の生きた年代は昭和61年。今より22年前だね」

オカシイ、おかしい、可笑しい――――
矛盾、違い、擬似、変……頭の中に描いていた設計図が全て破られた――――
計算途中の問題が全て白紙へと変わった。
その言葉はそれぐらい重い意味を持っていた。

「時間軸が違う、この擬似世界の時間は止まっている。それでいて22年の差が出てくる……」
「うーん……。たぶん、そう言う事だね」
「もし、このゲームをクリアしたらココロは何処の時間軸へ向かうんだ?」
「これも多分でしか言えないけれど…。22年前の時代へ向かうと思う。時間は止まっている、でも時間軸まで変える事は出来ないみたいだね」

何故笑っていられるんだ?それはつまり22年間この空間で生きていた事を意味するんじゃないのか?
僕は孤独を怖れた…最悪の時は孤独だと考えていた。
でもココロの心が解らない。ココロは何故22年という孤独を背負いながら笑う事が出来るんだ?

「孤独は――――――終わりじゃないよ。次への待ち時間、考え方を変えれば変わる」

ココロは強い、僕なんか足元にも及ばない。
22年もこの世界にいると精神崩壊を冒してもおかしくはない…
それとも………"既に壊れているか"…のどちらかだ。
少なくとも僕はココロを怖れながらも尊敬の感情を覚えたのは間違いなかった。

「でも………22年も掛かって探しものは見つからなかったの?」
「うん。見つからないんだ。私には大切なものも無いし、魔法使いの居場所は検討もつかない。私に出来たのは待ち、そして来る人を案内するだけ」

僕は――――思った。
壊れた設計図を書き直した、計算も初めから行った。あまり時間を掛けている暇はないと思った。
僕が行なうべき事は3つになったのだから。

『魔法使いを見つける。大切なものを探す。そして、ココロを解放する――――』

自分だけでは帰れない。だからココロも帰る方法も探してみせる。
魔法使いを探す、ココロの大切なものも探す。必要なのは、これからどうやって行動を起こすかだ。









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