割れる足跡







 今宵はミステリーを考えよう―――――



【衝動と計画のジャックパーティー】



/干渉ノート

 遠い記憶、擦り切れるほど暗い思い出。

 記憶と思い出の違いなんて何処が違うのだと思ったが一瞬で思考が切り替わる。これから思案する事は衝動ではない。ヤツの再び出会った時から考えていた綿密に練られた計画。
 まずは考えられる全ての可能性を考慮する。方法を考えるのはその後だ…
 最も重要なのは情報、これが無ければ始まらない。
 ターゲットの現在の身辺調査。素人である俺が下手に手を出して失敗してはそこで終わりだ。だからこれは私立探偵に依頼して情報を得る事にしよう。自分を危険に晒してはならない、リスクを味わうのは最大にして最小限に抑えなければならない。
 これである程度の情報は集まるだろう。他に必要なのは場所だ、完全犯罪を行なう上で重要なのは俺を犯人だと悟られない事。何処で殺すか…それも重要な要素に違いない。
 もう一度言うがその為には限界まで練られた計画が必要である。共犯者を作れば一番楽に事が運ぶかもしれない。しかし、裏切り、ミス、情報漏れの可能性が出てくる。それはリスクを増やす事を意味するだろう。そんな事は出来ない、同じ意思を持つ同士ならまだしも他人を計画に介入させる事は出来ない。
 こんな感じで思った事を全てノートに書き記して行く。
 もしこのノートが見つかれば俺が犯人だと決定づけられるが、俺が疑われた時点でアウトぐらいの完璧性が必要だ。それにこのノートを記している時が一番、思考が回る。自分とは思えないぐらい活性化する。そして活性化された頭脳は次の想定を開始する。
 俺が犯人だとするに当たって必要なのはアリバイ。アリバイを作るのは難しくは無い。しかし、小細工をすればするほど危ない、シンプルでありながら複雑さが要求される。だから考える、何が在れば捜査を撹乱して俺に影響が無くなるか…
 俺は腕を組んで目を閉じる。
「そうだな……」
 ターゲットと俺の関係を知るものは誰もいない。そしてターゲットすらも俺の存在を忘れていた。その時はつい衝動で殺してしまいそうだったよ。だから警察が調べたとしても俺の私情を知る事は絶対に出来ない。唯一知っているターゲットが死ぬのだから。
 少し、思考が反れてしまった。本題に戻そう…
 ならばターゲットに恨みがある人物を一緒に呼び出して囮にすればいいだろう。その事も探偵に調べさせて貰おう…
 色々書き込んでいる間にノートは5ページ目を突破した。そろそろ書く手が疲れてきた。俺はペンを置いて手をブラブラさせる。
 こんな時にパソコンがあればと思ったが表面的にはビンボー学生である俺の財布では難しい。それにキーボードを打つ手もそれ程早くないのでこの案は却下だな。仕方ない、ノートの方が実感を得られるから俺がこっちを選んだのも事実だ。
 今日の計画思案は此処までにしてそろそろ寝ようかな。睡眠も必要な要素だ、頭脳と体を休めなければ起こる出来事に対応出来ない。
 机に点けられた電気スタンドを消す、そして隣に置いてある目覚まし時計に目をやる。
「もう………4時か……」
 睡眠も長くは取れないな、眠れる時間を計算する。
 明日も学校だ、遅刻をしないように目覚まし時計をONにしてベッドへと体を入れる。
 気がつけば俺は寝ていた―――



第1話〈平凡と非凡〉



/1

 ジリリリリと鬱陶しい目覚まし時計が音を立てる。俺はその鬱陶しさから解放される為に手を伸ばす。
「ん……?」届かない。
 いつも置いてある筈の場所に手を伸ばすが目覚まし時計の感触は掴めない。その間もジリリリリリと時計が脳髄を刺激する。そろそろムカついて来た、目を開けて目覚まし時計を探す。
 目覚まし時計はいつもの場所にはなかった机の上にあるのを見つけて立ち上がり目覚まし時計を静かにさせる。そういえば時計を移動させたのを思い出す。
 はぁ…とため息が出る。お陰で目が覚めたとは言え朝からストレスが溜まってしまった。
 よろよろと立ち上がりコンロに火を掛ける。コンロの上に置いている小さめのやかんには水を予め入れていた。水がお湯にある間に顔を洗う。水が冷たかった事もあって完全に目が覚める。次に沸騰するまでの間にインスタントコーヒーをコップへ入れる。朝の時間は貴重だ、する事が多いのに時間が少しかない。無駄にすれば遅刻という結果で終わってしまうだろう。
 その間にお湯が沸いてやかんがカタカタと音を立てて沸騰を知らせる。
 コップに熱湯を注いでスプーンで混ぜる。俺は砂糖やミルクは入れないブラック派だった。実は苦いのを我慢しながら飲んでいるのは秘密だ。少しでも大人っぽく見せようと背伸びしているだけだ。
 暑いコーヒーが味覚を通り喉を通り過ぎる…少し暑すぎたと後悔したが手遅れだった。残りは少し冷めてから飲もうと机の上にコーヒーを置く。暑いのを我慢して飲む程の背伸びは俺には出来ない。
 ぼーと朝のニュースを見ながら朝の貴重な時間を消費する。今日も特に気になるニュースはなかった。いつもと変わらない。殺伐としながら平凡な毎日……少なくとも俺は退屈せずにはいられなかった。

 そして気がつけば時間は遅刻ギリギリにまで迫っていた。
 更に今日の一間目は小テストだと思い出す。「しまった…」と思いながらも思考はクリアに働いている。自分が情けない、少しは慌てろと自分に言い聞かせる。
「やばいなぁ……」
 勉強していなければ遅刻ギリギリ……前言撤回。平凡な毎日なんて昨日で終わりだ。
 急いで服を着替えてリュックに教科書を詰める。寝癖を治す暇がなかったのでメッシュキャップを被って部屋を飛び出す。
 平凡からの抜け出したい、そう願う慌しい朝だった。




/2

 結局は全速力で自転車をこいでも遅刻でした……勿論勉強もせずにテストを受けたのだから結果は散々。そろそろ真面目に勉強しなければ就職先が危うくなってくる。
 ちなみに俺は大学の建築学科に通う普通の学生だ。
「小テストで遅刻とはいい身分だな」
 クラスメイトの友達が陽気に声を掛けてくる。
 うん、自分でもそう思うよ。解ってはいるけれど遅刻癖が治らないのはある種の病気かもしれない。というか治る病気でありたい…
「はぁ……賢悟は結果どうだった?」
 こいつの名前は崎原 賢悟(さきばら けんご)。知り合ったのは高校の頃だった。同じ学校の建築科で同じクラスという奇数な巡り会わせにより仲良くなった。幸か不幸か同じ大学にまで進学してしまうとは……
 ついでに最近染めたらしい茶髪が目に入る。長めの髪が鬱陶しそうに思うのは俺だけだろう。ちなみに俺の髪の色は黒で染めた事は一度もない。この年齢では髪を染めていない人物の方が珍しいぐらいだ。「何で染めないのか?」と、たまに聞かれるが「その質問は必要なのか?」と思ってしまう。
 どうでもいいじゃないか。そんな事に理由を持って行動はしていない、だから答える時は「なんとなく」と答えるしかない。
 そんな髪の話よりテストの事だ、頭の良い賢悟の事なら小テストは余裕だろうな…
「可能性としては満点かもな」
 はははっと笑いながらも余裕だったと伝わる。もしかしたらこのテストで点が悪いのが俺だけなのかもしれないと少し不安になってしまう…
 そこで隣の席に座っている萩利 真恵(はぎり まえ)さんに聞いてみる事にする。いつも休憩時間には小説を読んでいる大人しい感じの女の子だ。一度読んでいる小説は何かと聞いたことがあったが有名な恋愛小説だった。だから今も手に持っている小説も同じような種類かもしれない。
 しかし悲しいことに隣の席と言う事もあってたまに話すぐらいでそれ程仲がいいという訳でもない。
「萩利さんはテストどうだった?」
 小説を読んでいる所に話しかけられて少しむっとしたがちゃんと返事をしてくれるのが有り難い。
「うん、今日のテストはいつもより簡単だったよ」
「ははは、悪いのは晃だけだよ」
 口惜しいが……何も言い返せない…
 遅刻したのも勉強していなかったのも自分の責任だからと割り切ろう。そして遅刻の回数を週5回から2回にまで減らそうと決意した。
 ちなみに晃と言うのは俺の名前だ。フルネームは和田波 晃(わだなみ あきら)。関係ないけれどワ行から始まっているから小学校の時から出席番号は最後だ。
「まあ、授業を真面目に受けていれば解る問題だから授業だけでも真面目に受けてみれば?」
 萩利さんが優しく声を掛けてくれるが授業中に眠たくなるのは事実だ。
「萩利さん、それは無理だってこいつは連日のバイトで疲れているんだから」
 自給の良いバイトを選んだら忙しいのは当然の結果だ。
 これも仕方ないと自分に言い聞かせる。バイトが忙しいからと言ってそれを言い訳にするのは弱い証拠だ。自分で選んで決めたのなら弱さを見せてはいけない。
「そういえば……何のバイトしているんだっけ?」
「居酒屋とガソリンスタンド…」
「え…2つも掛け持ちしているの?」
 萩利さんは俺の言葉に驚いた。
 それもガソスタが終われば居酒屋へ直行するというハードスケジュール…
 これなら勉強時間がなくなるのも頷けるかな。
「それにこいつは稼いだ金を使う暇もないから貯まる一方だ。欲しい物があれば晃に頼んでみなよ」
 その賢悟の言葉に対して萩利さんはそれじゃあ、お願いしようかなんて言ってきた……
 オイオイ…本気にしないでくれよ…
 金は通帳に貯まっていくが使う暇がないのも事実だ。まあ、そろそろ片方のバイトを辞めて出席日数を稼ごうなんて事も考えている。いくらなんでも留年はやばいな…経済的にやばい……
 その時、携帯電話の着信音が近くで鳴り響いた。と、思ったら俺の携帯じゃないか……リュックの中に入れていたのを忘れていた。マナーモードにしていなかったから授業中鳴らなくてよかったと思う…この着信音はメールなので慌てずに取り出してメールを読む。



  放課後ミーティング!賢悟と一緒に来い(^O^)



 滅多にメールが来ない相手からだ。というか笑顔の顔文字の割には命令文とは微妙な違和感を覚える…これはどうなんだ?何だがバカにされているような気もしてくる。
 ちなみに相手は部活の顧問の戸部先生からだ、多分20代の若い先生で生徒からも人望がある人気の先生だ。
 欠点は授業内容が賛否両論という事かな。授業は淡々としていて喋る生徒がいても決して注意はしない。そのまま授業を進めるものだから殆どの生徒が真面目に授業を受けていない。
 でも…俺はこの先生の授業内容は好きだった。建築が好きで入った俺には内容の濃い先生の授業を気に入っている。もし、俺が先生になったなら戸部先生の様な授業をしたいと思う。
 しかし部活の顧問まで勤めていたのは偶然だった。
 とりあえず待たされると怒られるので『はいよ。』と素っ気無い内容で返す。
「賢悟。戸部先生から放課後集合だって」
「おう、分かった。晃はバイトか?」
「いや、今日は居酒屋の遅番だけだから部活には顔を出せるよ」
 俺はバイトによって部活に顔を出す事が殆どない。幽霊部員と言われても文句は言えない立場にある。
 でも幽霊部員の俺にもメールをくれる戸部先生はやっぱり良い先生だと思う。
 そんな賢悟との会話に珍しく萩利さんも入ってきた。
「2人は何の部活に入っているの?」
「ああ、写真サークルだよ。部員数が今年で7人の少数サークル」
 賢悟が萩利さんの質問に答える。
 ちなみに写真に興味があるのは俺じゃない。賢悟が写真を撮るのも見るのも好きだから俺も一緒に入れられた。まあ、だから幽霊部員なんてやっているんだけどな…
「よかったら萩利さんも入らない?」
 そして賢悟は地道に勧誘活動をしている。写真に興味がない人間を誘っても意味がないだろうに、と思うが止める事はしない。
「え………私は…」
「別に晃みたいに興味がなくてもいいよ。何なら今日だけでも顔出さない?もしかしたら良い事があるかもしれないから」
 萩利さんは目線を上に逸らしながら考える。
「そこまで言うなら見に行ってもいいかな」
 萩利さんが折れた……もしかしたら賢悟は口が上手いのかもしれない。身長も高いし将来ホストにでもなれば上手く稼ぐ事が出来るのではないか思ったのは決して口に出さない。
 そして授業が始まる予鈴がなったので賢悟は自分の席へと戻っていった。
「でも私……合気道部に入っているんだよね」
 その声が聞こえた頃には先生が教室に入ってきていた。
 それよりも俺は賢悟が言っていた内容が気になっていた。良い事ってなんだろう?それは俺にも利益があるのだろうか?それだったら嬉しいな。暫く部活に顔を出していなかった俺には分からない事だった。




/3

 そして7時限の授業を終える……
 やっと解放された、と両腕を伸ばすとポキポキと骨が鳴る音が聞こえる。これって骨が曲がる恐れがあるからあまりやらない方がいいという事も知っていたがなんだか気持ちがいいのでやってしまう。
 賢悟は教科書をトートバックに詰めると俺達の席へと向かってくる。それで今朝のメールの内容を思い出す。
 ああ……忘れていたよ。そういえば萩利さんも行くとか言ってた気がする。
 一応聞いておく事にしよう。
「それで萩利さんは行くの?」
「うん、一応行ってみようかな」
 物好きな萩利さんも一面を知ってしまう。賢悟のどの言葉に興味を持ったのか分からなかった。
 それとも気が弱くて賢悟の言葉を断れないのだろうか?
 いろんな理由を考えてしまうが自分の思考で答えなど出る筈がないと気づき考えを止める。
「それじゃあ行こうか」
 萩利さんに声を掛けて俺もリュックを背負い立ち上がった。
 廊下に出ると人が溢れていた。時間帯的にも家路へと向かう生徒が多くをしめるだろう。
 その人ごみに負ける事なく先頭を行く賢悟は歩く速度が早く、萩利さんは多分ついて行くので精一杯だろう。
 でも言葉には出さないのか出せないのか速い速度のまま写真サークルの部室まで辿り着いた。
 賢悟がドアノブに手を掛けて軽く回す、部屋の扉を開けると既に4人の姿が見える。窓際の椅子に座っている2人と部屋の中央に置いてある長め机にカバンを置いて座ってある2人。
 俺らも比較的急いで来た筈なのに既に合計4人が集まっていた。
 窓際に座っている男の方が窪目 領(くぼめ りょう)。金髪でギャル男に近い服装をしている。珍しく今日タバコは吸っていないみたいだ。
 その窪目の隣に座っているのが中道 愛実(なかみち めぐみ)。
 窪目の彼女だと思う(確認はしていないので確証はなし)。こちらも金髪でミニスカートを穿いている。
 こっちもタバコは吸っていないみたいだ。この間、戸部先生に部室の禁煙を破ったのを怒られたからかもしれない、と思い出す。
 ちなみに2人とも俺達と同じ学年の2年生だ。短期大学という事もあって最高学年である。
 そして中央の机にいるのが継尾 柳(つぎお りゅう)と杉沢 勝也(すぎさわ かつや)だ。
 継尾の特徴はあどけなさの残る童顔だ。身長が低めという事もあってなお更、幼く見える。しかし気は強く見た目が元ヤンキーの窪目と口論している所も見た事がある。そのギャップを見た時は驚かずにはいられなかった。
 そして杉沢は継目と同じクラスで最近入ったばかりの進入部員だ。杉沢はその持ち前のクセ毛を気にしているのか髪の毛を触っていた。はっきり言って幽霊部員である俺とは殆ど面識がないのでどんなヤツかはあまり知らない…賢悟から聞いた話によれば最初から最後まで大人しい人物のようだ。2人は最近人気のゲームの話でもしている様だった。
「お、今日は和田波も一緒か。珍しいな」
 声を掛けてきたのは窪目だ。窪目の事はあまり好きじゃない事は事実だ。しかし人付き合いを悪くするつもりもないので適当な言葉で返事をしておく。
「ああ。戸部先生にも呼ばれたしね」
 そして窪目は俺と賢悟の後ろに立っている萩利さんに気がついたみたいだ。
「そっちカワイイ子は?」
「クラスメイトだよ。写真サークルの見学にきたんだ」
「へー。タイミングが良いな。もしかしたら行けるかもしれないな」
 その窪目の言葉が気になった…行ける?何処か行く予定でもあるのか?それを賢悟が言っていた良い事に繋がるのにそう時間が掛からなかった。
 とりあえず入り口で立っているのも変だから俺達も空いている席に座る。
 この空間に慣れていない萩利さんはキョロキョロして少し挙動不審だった。萩利さんは初めて話しかけた時も少しオドオドしていたぐらいだから人見知りするタイプなのかもしれない。
 そして雑談でも開始しようとしたその時、部室の扉がガチャリと音を立てて開いた。入ってきたのは戸部先生だ。入るなりいる人の人数を数え始めている。
「――2、3、4、5、6……7?あれ…?1人多い。……と、良く見れば萩利がいるじゃないか」
 何だが戸部先生は急いでいるのか自分に疑問を掛けては自分で解いている。それを声を出してやっているのが可笑しくて笑いそうになった。
「萩利さんを写真サークルの見学で――――」
 俺が喋る前に賢悟が話してくれた。賢悟は口が上手いので俺よりも短時間であらすじを説明できる。
 それを聞いた戸部先生も「今日は写真の活動は無いぞ」なんて言って来る。
 実際は殆ど写真の活動なんかないんだけどな…
 だから俺は質問した。もしかしたら今日集まった内容を知らないのは俺だけかもしれないと思いながら…
「先生、今日は何のミーティング?」
「そうだな、和田波は知らないんだったな。来月写真サークルの合宿を行なう事になった。そのミーティングだ」
「え!マジで!というか言えよ、賢悟!」
 突然の合宿の計画を聞いて驚きテンションが急上昇する。そして隠していた賢悟に言葉の矛先が変わる。
「という事だ。行きたいだろ?バイトの休みを貰っておいてくれ」
 勿論だ。今日にでも行って休みを貰おう。
 ちなみに俺は修学旅行では異常にテンションが上がって皆を困らせる事があった。20歳になった俺は合法的に酒が飲める。今回の合宿でも皆を困らせる可能性が高いだろう。
 そして先生がまあ落ち着けと俺を宥める。
「それなんだが…7人で旅館の予約を取ってあるんだが。大久保がバイク事故を起こして来られそうにないんだ」
 大久保とはこの写真サークルの部長の名前だ。部長だが影が薄いのは禁句で通っている。
 こんな時にバイク時期を起こすなんて不運な事もあるものだ…
「そこで誰かを増やす案を考えていたんだが…ちょうど良い。萩利も来い」
 先生には強引な部分がたまにある。いや…よくある。命令で言っているのはいつもの口調だから勿論断る事も出来る。
 そういえば賢悟が言っていた良い事が起こったんだな。
「萩利さんも一緒に行こうよ。きっと楽しくなるから」
 そして俺も行くように進めておく。部長には悪いが萩利さんもいた方がいいと思う。いや、だってメンバーで男5女1(窪目の彼女)っていう状況は辛すぎる。
 うん、きっと来た方が楽しくなるに違いない。
「まあ、ちょっとは考えさせてよ…」
 それもそうだ。いきなり話を聞いて参加を決める性格じゃない事は俺でも知っている。
「もし、参加したいなら来週中に俺にまで言いに来てくれ」
 先生が口を挟む。
「はい。分かりました」
 それで今日のミーティングの内容だった7人目が決まった。
 それから何の説明も受けていない俺と萩利さん先生に行き先、目的などの説明を聞いた。
 今日の用事が終わった他の部員は全員帰宅していった。賢悟も俺を待つ事なく帰ってしまった。
 少しぐらい待ってくれてもいいだろうに…
「行き先は長野県の山間にある旅館。表面上の目的は景色の撮影。でも後は旅行と変わらないだろうな。得に和田波と萩利は写真なんか撮らないだろ?」
「うん、全然撮らない!」
「はぁ……少しは俺にも気を使えよ…何で写真サークルに入ったんだよ…」
 先生は俺の言葉に気を落としているが今の俺のテンションが当社比1.5倍になっている。そんな先生に気を使う余裕なんか少しもない。
「まあ、いいや。何か質問は?」
「山間って事は温泉とかある?」
「露天じゃなければあるぞ。詳しくはこのパンフを見てくれ」
 そして何処に置いてあったのかパンプレットを取り出して俺に手渡す。
 行き先の情報の殆どはパンフレットから得る事になった。
 萩利さんはあまり喋らなかったが楽しかったのか笑顔でいてくれたのが嬉しかった。
 そして質問を終えて解散となった。携帯の時計を見てみると18時と表示されている。
「それじゃまた明日学校で―――」
「明日は土曜日で学校は休みだよ」
「ははは、そうだった。じゃバイバイ」
 自転車置き場へ向かう所で萩利さんと別れる。
 俺はこれからバイトがあるのでまだ帰る事は出来なかった。
「さて……今日もキリキリ働きますか…」
 自転車に跨りながら愚痴を溢す。



/干渉ノート

 今日もターゲットと出会った。今此処で殺してしまおうと考える自分の理性を抑えるので精一杯だった。
 しかしこれで殺人場所を思いつく事が出来た。
 サークル内の合宿の行き先は長野県の山間の旅館。聞く話によると携帯電話が県外になるぐらい外界とは隔離されているらしい。好都合だ、電話線を切断すれば警察に連絡は出来なくなる。警察が来るのが遅れれば証拠を消す作業すらも可能になるだろう。
 そして駅からは車での移動になっている。後は車での連絡を絶つ方法について……
 田舎だから車の数も少ないだろう。殺人犯行時に細工でもすればいいだろう。この辺は現場の状況により臨機応変に対応しよう。
 この合宿は来月だ、準備期間は決して多いとは言えない。その間に考える必要があるものを上げていこう。
 犯行の計画:これが一番重要であり時間を掛けて練る必要がある。これについては考えている事がある。
 ターゲットを殺す、そしてターゲットと仲が悪いアイツを囮に使う。殺す時に必要なのはアリバイ。アリバイがなければ疑われる、しかしアリバイが在れば疑われない。
 これを逆に考えてみよう。全員のアリバイがないとすれば全員が同じラインから捜査が始まる。
 そうなったら俺が直接疑われる可能性も低くなるだろう。

 気がつくとカーテンの隙間から日が差し込んでいたのが見える。それを意識が見て我に戻る……時計を見るとデジタル時計が5:30を示している。
「今日は昨日より寝られないな…」
 睡眠時間が大事だという事は昨日も考えた。
 しかし考える事が複雑過ぎて思考が睡眠状態になろうとしない。
 そして俺は気がつく。
「今日は学校ないじゃないか……」
 一度我に戻ると深く考え込むのは難しいと知っている。
 だからノートを閉じて寝る事にしよう。だんだん眠気が襲ってきてまぶたが重く………
 この日も……気がつけば寝ていた…




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